SQL に対する批判
C.J.Date の 「データベース実践講義」 には、SQL に対する批判が随所に書かれている。
例えば、1 章の 「概要」 だけ見ても、初っ端から次のようにある。
リレーショナルモデルに関する知識が SQL の知識にのみ基づくものであるならば、リレーショナルモデルを十分に理解しているとは言えない。 (p1)
既存の実装に対しても手厳しい。
SQL をリレーショナルに使用することはもちろん可能だが(...)、既存の実装は完璧というにはほど遠いため、そのように使用するとパフォーマンスが大幅に低下することがある。その場合には、「完全にリレーショナル」ではない方法に頼らざるを得ないだろう (同上, p4)
一貫して主張されているのが null の否定。
実体整合性のルールには、実は問題がある。それは、筆者が 「null」 の概念を完全に否定しているからである。すなわち、null はリレーショナルモデルに存在する意味がないというのが、筆者のこだわりなのである。(同上, p7)
また、リレーショナルモデルにおける 「関係」 が SQL で正しく扱われていないことも指摘。
- SQL では行の重複が許されていること。
... 関係に重複するタプルが含まれることはあり得ない。なぜなら、本体はタプルの集合であり、数学における集合に重複する要素が含まれることはないためである。ところで、これは SQL には当てはまらない。知ってのとおり、SQL のテーブルには重複する行が含まれていてもかまわない。このため、一般的には、SQL のテーブルは関係ではない。 (同上, pp.14-15)
これは重複を許すと、RDB はリレーショナル代数に基いているのにも関わらず、「関係」 に対する演算が「関係」でなくなるため、 代数 ではなくなってしまうということかな。
- 列に順序があること。
... 関係の属性についても、左から右への順序付けがあるわけではない。なぜなら、見出しも数学的な集合だからである。... SQL のテーブルの列は、左から右へ順序付けされている。(このこともまた、SQL のテーブルが一般的に関係でない理由の一つである)。 (同上, p15)
テーブルとビューについては、扱う 「関係」 という点から見れば、本質的には変わらないことが述べられている。
... こうした状況は SQL 規格 (...) からもうかがわれるほどで、一般的には (...) 「テーブルとビュー」という表現が使われている。当然ながら、そうした表現が使われたのでは、誰もがテーブルとビューが別のものであると勘違いし、「テーブル」が物理的なもので「ビュー」が実体のないものであると思い込んでしまうだろう。... ビューは「通常の関係」なので、通常の関係で実行できる処理は(少なくともリレーショナルモデルでは)ビューでも同じように実行できる。(同上, p17)
リレーショナルモデルで扱うのは 「関係」 という値と、それに対する演算であって、実装の問題は別腹と考えるのはシンプルですっきりしている。
Tutorial D
… 本書では可能な限り SQL を使って例を示すが、このように何らかの理由でそれが不可能である場合には、 Tutorial D というきわめて直感的な (そして真のリレーショナル) 言語を使用する。 (同上, p19)
ということで、真のリレーショナルと言われる Tutorial D を試してみる。
第3のマニフェスト – Wikipedia によると、
第3のマニフェストは、デイトとダーウェンが考案したデータベース言語 Tutorial D を使って、関係モデルを説明している。 Tutorial D は、データベース言語仕様 D の実装の一つである。 D は、関係データベースのデータベース言語が満たすべき要件の集合である。
実装として挙げられている中で、お手軽に試せるのが Java で実装された Rel 。
SourceForge.net より、ダウンロードしてインスール。
スタート > すべてのプログラム > Rel > DBrowser を起動。
sys.Catalog
を入力して Evaluate すると、データベースに定義されている変数の一覧が表示される。
Rel に慣れるために
以下ざっと目を通す。
簡単な計算を評価すると、
1 + 2
`3’ と結果が表示される。
タプル、関係の評価
タプルを評価すると、
tuple {name "Tarou", age 10 }
結果は、
「関係」を評価すると、
relation { tuple {name "Tarou", age 10 }, tuple {name "Hanako", age 20 }, tuple {name "Jirou", age 30 }}
結果は、
Character, Integer と型を指定しなくても、属性の型が表示された。
式 と 文
上記の評価では、最後に `;’ を付けないことに注意。
Rel / Tutorial D Grammar を見ると、式は、
evaluate ::= ( compound_statement_body ";" )? expression ( <EOT> | <EOF> )
これに対して、文は末尾に `;’ を付ける。
statement := statement_body ";"
関係変数の定義と代入
変数の定義
SQL で最初にテーブルを作成するときの要領で、「関係」 を値に持つ関係変数 (relvar) を定義してみる。
例えば、以下の表にある 「人」 型の関係変数を定義。
var persons base relation { id integer , name character , gender integer , age integer} key {id};
変数 persons は relation で指定した型となる。ここでは組み込みの型のみを使って定義した。
末尾に `;’ を付けるのを忘れずに。
値を変数に代入
次に、関係変数を定義したので、変数に値である 「関係」 を代入する。
persons := relation{ tuple { id 1, name "Tarou", gender 1, age 10 }, tuple { id 2, name "Hanako", gender 2, age 20 }, tuple { id 3, name "Jirou", gender 1, age 30 }, tuple { id 4, name "Saburou", gender 1, age 40 }, tuple { id 5, name "Akemi", gender 2, age 8 }, tuple { id 6, name "Sadayo", gender 2, age 70 }, tuple { id 7, name "Hiroko", gender 2, age 15 }};
先ほどの relation が型を返すのに対して、この relation は値を生成する。
関係変数の内容を表示させたい場合は、
persons
と入力して Evaluate する。 `;’ を末尾に付けない。
変数の削除
作成した関係変数を削除したい場合は、
drop var persons;
「Tutorial D でリレーショナル代数」へつづく
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